都島駅(大阪メトロ)の少し南側。寂れた商店街の南端近くにその店はある。飾り気のない外観で、灰色の壁に茶色い扉、ポツンと外灯があり、ごくさりげなく店名が書かれたプレートが置いてある。

この日は17:30で予約していたのだが、17:15頃に到着すると既に外灯がついていた。これは少々困りものである。小型店の場合、営業前であっても仕込みや掃除のために店内のメイン電源を入れると、回路の都合上、看板や外灯まで点灯してしまう構造なのかもしれない。あるいは開店準備のルーチンとしてまず外灯をつけ、作業中も点灯したままになっているケースもある。ごく稀に、自動点灯センサーが曇天などで反応し、開店時刻よりもかなり前についてしまうパターンもあるだろう。店側としては「準備中(Closed)」の札を出しているつもりでも、遠目からだと外灯のインパクトが強く、誤解を生みやすい。
周辺をぶらぶらして時間をつぶし、2分ほど前に店に戻ると、偶然別のグループが扉を開けて入っていったため、それに続いて入店した。中に入ると、大きなカウンターテーブルが目を引く。このカウンターには奥棚がない。通常であれば食器や食材ケースなどを置いてキッチンの目隠しとすることもあるが、それもない。そのため、カウンターの存在感が強い印象を残す。座席はカウンターのみの8席だ。入り口を入ってすぐ右手にもテーブルはあるが、作業台として使われているようだった。
店内にはドライプランツ(ウッドオブジェ)がさりげなく置かれている。さすがにエアコンは白浮きしてイメージを損なうと考えたのか、目隠しが施されていた。カウンター背面の壁は灰色がかった紺色、座席は薄紫だろうか。それでもやはり、大きなカウンターが強く目を引く。

いつも通りのこだわりを書いておけば、エスプレッソマシンの上にダスターを置かないでほしい、カラフェは透き通るくらいに磨き上げて置いてほしい、といった点は存在する。普段は五つの評価項目に則ってポイントをつけているのだが、コースが始まってしばらくした頃、思い知らされた。このような評価など、まったく意味がないのだと……。なぜそう感じたのかは、後述する。
コース料理のみの提供だが、これは店主のワンオペであることを考えれば納得がいく。席に着くとメニューカードが置かれているが、料理名が非常にユニークだ。通常のフレンチやイタリアンであれば、メニューは<主材料>+<調理法(ソース・スタイル)>となる。イタリアンならフィレンツェ風、ミラノ風といった地名が入ることも多い。ところが、ここのメニューカードに記されているのはほぼ素材名のみだ。言い換えれば、素材名以外の情報が徹底的にそぎ落とされている。だからこそ、料理が出されるまで何が登場するのか分からない。語りすぎず、皿の仕上がりと発想だけで勝負するという店主の自信の表れだろう。

このメニューカードの一番下に、Piccolo ristoranteと書かれていた。現在はそれほど厳格ではないものの、イタリアンの格式はリストランテ、トラットリア、オステリア、タベルナ、バールの順となる。カウンター8席という規模だけを見れば小料理屋やバールのサイズ感だが、トラットリアやオステリアとせずリストランテ(Ristorante)と名乗る点に、店主の美学と矜持を感じる。手軽な大衆食堂や居酒屋ではない。提供するのは妥協のないリストランテの料理と空間なのだという強いプライドが伝わってくる。例によってトリビーなのだがイタリアのビールにした。

料理について触れるが、二皿だけ紹介したい。最初の料理には『茄子・ハモ・プラム』と書かれていた。ハモは夏の食材だが、味が繊細で淡泊なため、和食では骨切りしたあとのアラ(出汁)や葛を合わせて旨味を補強するのが王道とされる。しかし、ここにブロード(鶏スープ)を合わせてくるあたりに、イタリアンならではの骨格を感じた。最初はこの皿を見てハモを使った和伊折衷の料理かと思ったが、違っていた。ハモという淡泊な高級食材の旨味を引き立てるため、鶏スープの土台が緻密に設計されていたのだ。

二皿目は『イカ・火傷・オクラ』と書かれた一皿だ。「火傷」とはスコルダート(Scordato)という高温で一気に火を入れる技法を指しているのだが、調理が始まるとイカの香ばしい良い香りが一気に漂う。そこにディルを合わせることで、イカの余熱やオイルの温度によりディルの精油成分が一気に揮発し、その香りも広がる。あえてダクトの吸気をコントロールしているのではないかと思えるほどのライブ感だ。視覚や味覚よりも前に、まず嗅覚が圧倒される。

その時、気づかされた。ここは店主がパフォーマンスを披露する舞台なのだと。冒頭でカウンターに奥棚がないと書いたが、だからこそ扱う食材や下処理の様子がすべて目に入る。カウンター8席の空間は、客の感性を喚起するために緻密に計算された演出の舞台そのものなのだ。洗練された内装も、独特の雰囲気も、すべてはその演目を引き立てるために用意されている。これには白ワインをあわせてみた。

食材名だけがストーリーのように素っ気なく記されたメニューも、客の無駄な先入観をそぎ落とすための仕掛けだろう。コース料理という一つの物語を全員で共有しているからこそ、調理の熱と共に一気に広がる香りの演出が劇的な効果を生むのだ。
だからこそ、客の側に野暮なアラ探しや理屈は不要だ。店主が仕掛けてくる圧巻のパフォーマンスに報いる唯一の方法は、ただ五感を研ぎ澄ませ、差し出される一皿と誠心誠意向き合うことだけである。したがって、料理の紹介はこの二皿で終わりにしたい。冒頭で述べた「5項目でポイントをつける評価方法が無意味である」と感じたのも、まさにこの体験があったからだ。ということで、以下は料理名と画像のみで…。
コッコリ、ランプレッド、沖縄。なんだけど、やっぱりわかりにくいと思うので、ちょっと解説。コッコリというのはトスカーナ名物の揚げパン。ランプレッドというのはギアラ(牛の第四胃)。これをハンバーが仕立てにしてある。『沖縄』となっているのは、刻んだゴーヤが使われており、調味料としてはコーレグースー(島唐辛子)が使われている。おそらくイタリアンならピカンテオイルなんだろうけど、ここは沖縄風にアレンジされている。

鮎、クレソン、モロヘイヤ。

カヴァテッリ、玉蜀黍、ペコリーノ。

太刀魚、シラス、ズッキーニ。

夏鹿、発酵、ブルーベリー。

ドルチェが、カキ氷、桃、トロピカルと書かれた逸品だったんだけど、なんと撮り忘れた。(^^;)。代わりにオーダーしたワインをどうぞ。



アルコール類にも触れておくと、スプマンテは良しとして、ビールが食前酒扱いになっている。このあたりも、食中のメインパートナーとしてはワインを飲んでほしいという店主のこだわりなのだろう。ワインを中心に見ていたため見落としがあるかもしれないが、焼酎やウイスキーは見当たらなかったように思う。また、食後酒が非常に充実していた。最近は食後酒を飲まない人が増え、置かない店も多くなっているが、クラシックなイタリアンにおいてグラッパやリモンチェッロなどの食後酒はコースの余韻を完結させる最後のピースである。正直、満腹ではち切れそうだったためオーダーには至らなかったのだが……。順番が逆になったけど、自家製のフォカッチャ。料理(コース)自体のボリュームが多いので、おいしいからと言って調子に乗って食べてると、後半、かなり辛くなってくる。

C/Pについてだが、最高値が5であるため5をつけたものの、本来は数値などつけられない。料理、演出、ホスピタリティ、満腹度、そして驚きと興奮――そのすべてが圧倒的であった。
(参考)





ドリンクについては、ビール、サワー、ハイボール、焼酎など各種取りそろえられています。あと、フード、ドリンクにかかわらず、オーダーしてから届けられるまでが早いです。客席からキッチンも見て取れるのですが、それほどスタッフ数が多いわけではないにもかかわらずスピーディです。



























































